少女は走っていました。
もう1時間以上も走り続け、小さな体はくたくたです。
さっきまで明るかった空は、もうすっかり深い闇に包まれて、真っ黒なカラスが少し心細くなった少女の心をあざ笑うかのようにかぁかぁと鳴いていました。
でも少女は必死でした。まるで追われているかのように息を切らし、深い森のやぶの中をどんどんとすすんでいきます。
しっかりと抱えた白い大きな布袋は、少女にはとても大きく重そうでした。
少女はこれからへんてこな屋敷にすんでいる顔の大きな男の人に会いに行くところでした。
その男がすんでいるおうちはなんだか不思議なのでした。窓は一つもなく、とてもへんてこな 今までに見たこともない大きなお屋敷でした。
でも少女の大好きな絵本の中に出てくるようなライオンの口からあふれでる豪華なお風呂や大きな大きなベットがありました。
そしてたくさんの人形が部屋中を埋めつくすように並び、まるで本物の人間のようにこちらをじっと見つめています。
そんなお家が少女はすぐに好きになりました。
まだ一度しか来た事のないそのお家に、男の人はたった一人で住んでいました。
少女は少し、その男の人に同情していました。
少女もまた男の人と同じような暮らしだったのでした。
義理の姉さんと義理の父さんがいましたが、まるで一人ぼっちのような、このお屋敷と同じくらい広く淋しい気分で過ごしていたのでした。
その男の人はというと、毎晩人形を作るお仕事をしているのだそうです。
でも男の人は人間が嫌いだったので、それは秘密の約束でした。
ようやく大きな屋敷に辿り着き、大きな重い扉がギィと開いて、男の人が出てきました。
「入っておいで。」
男の人は少女を見ると不気味に笑い 少女を中に招き入れました。
今日は素敵なパーティーが開かれているようでした。
きらびやかな明かりに豪華な食事、少女は今まで生きてきた中でこんな素敵な食事達は見たことがなかったので、心も体もわくわくしていました。
「今日はなにごとかしら。」
少女はつぶやきました。
でもやっぱり人間は誰もいないようでした。
それでも少女はこの広い屋敷の中には、いつも誰かが見ているような、そんな気がするのでした。
「あの本物のようなお人形のせいなのかしら?」
少女は思いました。
すると、後ろから男の人の声がしました。
「今日は君と友達になれたお祝いのパーティーだよ。約束したものは持ってきた?」
そうでした。
一週間前、男の人と秘密の遊びをする約束をしたのでした。
少女は大きな瞳を更に輝かせて、大きくうなづくと、さっきまで大事に抱えていた白い大きな布袋を開いてみせました。
つづく |
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