こんこん。
恐る恐る指でノックする。
大きく重い扉は音を吸収してしまい、小さな音しか発さない。
これでは中に人がいても、聞こえないだろう。
どんどん。
もう一度、ノックしてみる。
今度は拳を握り力強く。
「・・・。」
何も反応がない。どうやら誰もいないようだ。
「・・・ふー!」
私は安堵のため息をついた。
雰囲気に飲まれて思わずノックをしてみたものの。
本当のところ、でてきてほしくなかったのだ、誰にも。
だって、怖いから。このわけのわからない状況で誰かでてきても。
緊張から開放された私は、一度冷静になろうと現状を把握してみることにした。
「えーと、昨日、私は小説を書いてた。【人形屋敷の秘密】。書きながら寝たよ、うん。
で、寝坊して慌てて家をでて学校にむかってた。そうそう。
ほんでもってギリセーフで学校についたと思ったら、ここにいた・・・と。ふむ。
・・・・。
・・・いやいやいや。『ふむ。』じゃないって!!全然整理されてないし!!家をでてから学校まで急展開すぎでしょ!!ここが知りたい!!
てか、あれ?自転車乗ってたよね?私。家を出たとき自転車乗ってたよね?ないじゃん今!あれ?どうなってんの?あれ?あれ?」
周囲の気味悪さを吹き飛ばそうと大きな独り言を発していると、背後から
どさっ。
と物の落ちる音がした。
「!!!??」
すっかり自分の世界にはいっていた私は物音に心底驚いた。
慌てて振りかえり周囲を見渡すも、相変わらず気味の悪い木々が生い茂っているだけ。
音がした方へ歩いてみると、可愛らしい柄の布の塊が落ちていた。
何だろう?
私はそれを拾いあげた。
「…これは…」
それは顔や体・瞳など、服と髪の毛以外のすべてが陶器で作られた人形だった。
一瞬薄気味悪さを感じたが、優しげな表情がその感情を緩和させた。
古いものなのかところどころひび割れが見受けられるが、汚れひとつなく澄んだ瞳の美しい女の子の人形だった。
「…人形…」
はっとした。
やっぱり。私の書いている小説に関係あるんだ。
だけど何故?どういう事なんだろう。
“小説の世界に作者がはいってしまった。”
漫画や小説の世界では話の導入としてよく使われる手段ではあるが、まさか自分がそんな目にあうとは夢にも思ってなかった。
「・・・」
私が答えのでない問題に頭を悩ましていると、意外な所から声がした。
つづく |